シヴァは、姿かたちから入ると覚えやすい神である。額に第三の目、手に三叉戟、髪には三日月と、天から落ちてきたガンジス河。首は毒を飲んだために青い。一つひとつの持ち物の背後に物語が畳まれていて、図像がそのまま神話の索引になっている。この名鑑は上村勝彦『インド神話 — マハーバーラタの神々』(ちくま学芸文庫)に依拠する。これは原典の翻訳そのものではなく概説書だが、大叙事詩マハーバーラタを中心に原典の神話を平易に紹介した定評ある一冊である。なお、シヴァはヒンドゥー教という今も生きた信仰の神であり、この記事は文献の中の神話だけを扱う。
何の神か — 短い答え
シヴァは破壊と、それに続く再生を司る大神である。世界の維持を司るヴィシュヌと並んでインド神話の中心に立ち、後代にはブラフマー(創造)・ヴィシュヌ(維持)・シヴァ(破壊)を一体と見る三神一体(トリムールティ)の考え方も整えられた。ここでの破壊は単なる災いではなく、古びた世界を終わらせて次の周期を始めるための働きとして語られる。ゲームで「破壊神」とだけ紹介される姿は、この半分だけを切り取ったものと言える。
一柱の中に、山にこもる苦行者、宇宙の律動を踊る舞踏の王、パールヴァティーの夫でガネーシャの父という家庭の主、と複数の顔が同居しているのもシヴァの特徴である。
名前と呼び方
シヴァという名は「吉祥な者」を意味する。もとは恐ろしい神を鎮めて呼ぶ婉曲な尊称だったとされ、ヴェーダ文献に登場する暴風の神ルドラ(咆哮する者)に対する呼びかけに遡ると考えられている。ほかにマハーデーヴァ(偉大な神)、ナタラージャ(舞踏の王)など多くの呼び名を持ち、呼び名の多さ自体が、この神の顔の多さを映している。
領分と象徴
- 第三の目。額に縦に開く目で、ここから放たれる炎は、シヴァの瞑想を妨げた愛の神カーマを焼き尽くしたとされる。
- 三叉戟。シヴァの得物としてもっともよく知られる武器である。
- 青い首。神々と魔神が不死の霊薬を求めて大海を攪拌したとき(乳海攪拌)、先に生じた猛毒を世界のためにシヴァが飲み干し、喉に留めたために首が青くなったと語られる。
- 髪の三日月とガンジス河。天から一気に落ちれば大地を砕くはずだったガンジス河を、シヴァが髪で受け止めて地上へ静かに流したという伝えがある。
- 牡牛ナンディン。シヴァの乗り物であり従者である。
- 踊り。宇宙の生成と破壊の律動を踊りとして表す舞踏の王の姿は、後代の図像で特に有名になった。
系譜 — 妃と子
| 関係 | 名前 |
|---|---|
| 妃 | パールヴァティー(ヒマラヤ山の神の娘) |
| 先の妃と伝えられる女神 | サティー |
| 子 | ガネーシャ(象の頭の神)、スカンダ(軍神) |
サティーは父ダクシャがシヴァを祭りに招かず辱めたことを憤り、自ら命を絶ったという。のちにヒマラヤの娘パールヴァティーとして生まれ変わり、厳しい苦行の末にシヴァの妃となったという筋で、二人の妃は一つの物語の前後としてつながっている。ヴェーダの神ルドラとの関係も含め、シヴァの系譜は一枚の家系図に収めるより、伝えの重なりとして読むほうが原典の姿に近い。
主な逸話
シヴァの逸話は、持ち物の由来とほとんど重なっている。象徴の節と行き来しながら、要約で追えるように並べる。
- 乳海攪拌の毒。不死の霊薬を得るための大攪拌で最初に生じた毒をシヴァが引き受け、世界が救われる。破壊の神が世界を守る側に立つ、この神らしい逸話である。
- 三都の破壊。空を移動する魔神たちの三つの都市が千年に一度だけ一直線に並ぶ瞬間を待ち、シヴァが一矢で三都を焼き払ったと伝わる。
- カーマの焼却。瞑想中のシヴァに恋心を起こさせようとした愛の神カーマが、第三の目の炎で焼かれる。のちにカーマは姿のない存在として復活を許されたと伝えられる。
- ガンジス河の受け止め。天の河を髪で受け、暴威を鎮めて地上へ導く。
異伝 — 別の伝わり方
- ガネーシャの誕生。パールヴァティーが自分の体の垢から生み出した門番が、シヴァと争って首を落とされ、象の頭を与えられて復活したという伝えがよく知られるが、誕生と象頭の由来をめぐる語りは文献によって複数の形で伝わる。一つに決めず、幅のあるまま読んでよい。
- ルドラとシヴァ。ヴェーダの暴風神ルドラが後のシヴァへつながっていくという見方が有力だが、どの時点で「同じ神」と呼べるのかは学問上も一本化されていない。名前の連続と性格の変化を、そのまま歴史の層として眺めるのがよい。
他の神話の似た神
世界が壊れて次の世界が始まるという筋立ては、他の体系にもある。北欧神話のラグナロクは神々の世界の終わりと再生を語り、シヴァの破壊が周期の節目として語られるのと響き合う。ただし、破壊を一柱の神の領分として人格化するインドの語り方と、避けられない運命の出来事として語る北欧の語り方は設計が違う。並べて読むなら、その違いのほうが面白い。
原典と読める本
この記事は上村勝彦『インド神話 — マハーバーラタの神々』(ちくま学芸文庫)に依拠した。繰り返しになるが、これは原典の翻訳ではなく概説書である。インド神話はヴェーダ、叙事詩、プラーナと文献の層が厚く、最初から原典の翻訳に挑むと道に迷いやすい。まず概説書で全体の地図を手に入れ、気になった神話から原典の翻訳へ進む二段構えを、この館では勧めている。
